チベット語:ジャンペルヤン、ジャムヤン
梵語:マンジュシュリ
文殊菩薩は仏陀の究極の智慧を象徴する尊格で、日本では”文殊菩薩”と悟りに至る前の段階の”菩薩”として扱われますが、チベット仏教では完全な仏陀として認識されます。
泥の中から咲き出でながらもその泥に一切染まることのないことから、迷いの俗世に顕現しつつも穢れることのない究極の智慧を象徴するという蓮台に座し、右手で振りかざすド
ルジェ(五鈷杵)の柄を持つ両刃の剣で、煩悩を断ち切り、剣先の炎が無明の闇を照らします。左手に持つ蓮華の上の経典は文殊菩薩の智慧の象徴であり、仏陀の悟りの源でもある般若経と言われています。
いくつかの異なる体色のものや、多面多臂のもの、明妃ヤンチェンマ(サラスヴァティ)を抱く姿などの変化身があり、忿怒の変化身としてチベット仏教ゲルク派の宗祖ツォンカパ大師の守護尊であるヤマンタカ(大威徳明王)があります。
制作年:2009年
寸法:21×29cm
<基底材>
綿布、チョーク、膠液
<彩色画材>
藍銅鉱、孔雀石、本藍、緑土や黄土、純金泥など。
天然の顔料を用いてA4サイズのキャンバスに描かれた小さ目のタンカです。
悟りを得て解脱を果たした如来に比べて、僅かに丸みを帯びた尊顔は童子の様相で、純金で飾られた衣、装身具を身に付けています。
外から内に向けて白い暈しを施した光背には、後光の光線を表す細い金線が引かれています。等間隔に描かれたこの細く長い金線は、緩やかなカーブを描く線と、同じカーブを描きながら更に細かく波打つ二種類の線が交互に、外側に向けて徐々に間隔が広くなるように描かれています。
尊格の体が周りに描かれているものに埋もれてしまうことがないように、頭部周辺の頭光や両肩から緩やかにたなびく条帛(じょうはく)は緑、青といった寒色を使い、対して下半身の衣部分は尊格の身体と同じく赤、燈色といった暖色で彩色されています。
左手に持つ蓮華の上には智慧の象徴、般若の教えを説いた経典。
煩悩を断ち切る鋭い剣と、無明の闇を照らす炎。
水辺に小さく描かれたつがいの鶴。