木製の枠に革を張ったチベット仏教の法要・儀式に使われる両面太鼓。チベット語では”ンガ”と呼ばれます。
経典を読み、マントラを唱える低く太い声が響くチベット仏教の法要で、経典を読むリズムを取るように用いられたり、一定の決められた箇所で、スィルニェン(シンバル)、ギャリン(チャルメラ)、ドゥン・チェン(大型のラッパ)、ドゥン(法螺貝)などの他の楽器と共に使われます。
太鼓を叩く際は独特の曲線を描いた撥が使われますが、その撥の先の部分が布で覆われている為、木の部分で直接叩く日本の太鼓のように固く強い音ではなく、経典を読む低い声にうまく調和した低く丸い音が出ます。
制作年:2010年
<基底材>
木、革
<彩色画材>
アクリル絵の具、洋金粉
側面の木製部分上部には、太鼓を四角い木枠に取り付ける為の金具があり、その金具部分を中心に八正道を表わす八本の輻(ふく)の法輪が描かれ、その両側に青い宝珠を手にした龍が一匹ずつ描かれています。
彩色されたほとんどの部分は筆による輪郭線が用いられず、代りにチベット語で”キュンブル”と呼ばれる盛り上げ技法で輪郭が表現されています。
”キュンブル”は、粘度の高い塗料を入れたゴムチューブや袋の先に細い穴の開いた金具などを取り付け、そこから絞り出された塗料をうまくコントロールすることで模様を描く技法です。本作品のように、特に金色で彩色する部分に施すと、光の角度により輝く金色の表面に陰影ができ非常に効果的です。
緑色で彩色された太鼓の革が張っている部分中央には赤、青、緑のカルチェー・スムダン(繧繝彩色)で”ガーキル”(アーナンダ・チャクラ)が描かれています。