チベット語:ジャムヤン・マワェー・センゲー
梵語:マンジュシュリ
文殊菩薩は仏陀の究極の智慧を象徴する尊格で、日本では悟りに至る前の段階の”菩薩”として扱われますが、チベット仏教では完全な仏陀として認識されます。
チベットでは、右手に剣を振りかざし左手に経典の乗った蓮華を持つ姿の”文殊菩薩”が最もよく知られていますが、本タンカでは獅子に跨り、剣・経典を乗せた蓮華を持つ両手が胸の前で印を結ぶ姿で描かれています。
泥の中から咲き出でながらもその泥に一切染まることのないことから、迷いの俗世に顕現しつつも穢れることのない究極の智慧を象徴するという蓮台に座し、右手で振りかざすドルジェ(五鈷杵)の柄を持つ両刃の剣で煩悩を断ち切り、剣先の炎が無明の闇を照らします。左手に持つの蓮華の上の経典は文殊菩薩の智慧の象徴であり、仏陀の悟りの源でもある般若経と言われています。
いくつかの異なる体色のものや、多面多臂のもの、明妃ヤンチェンマ(サラスヴァティ)を抱く姿などの変化身があり、忿怒の変化身としてチベット仏教ゲルク派の宗祖ツォンカパ大師の守護尊であるヤマンタカ(大威徳明王)があります。
制作年:2011年
寸法:21×28cm
<基底材>
綿布、チョーク、膠液
<彩色画材>
藍銅鉱、孔雀石、本藍、緑土や黄土、純金泥など。
獅子の跨る姿の智慧の尊格”ジャムヤン・マワェー・センゲー”を描いたA4サイズの小さ目のタンカです。
青い獅子に跨る尊格は慎重に混色された柔らかい燈色と淡目の暈しで彩色され、上半身には美しい天然緑青(孔雀石)で彩色された衣を纏っています。背後の光背部分は、その身体を浮き立たせるようにやや濃いめの群青(藍銅鉱)で内側を彩色し、等間隔に引かれた純金泥の細く長い線で光明が表現されています。
また光背外側部分は、純金泥を塗った上に細い線で模様を描き、それを瑪瑙で磨くことによって美しい輝きを出しています。
タンカ上部、光背の後ろには尊格の身体の色を反映した淡い燈色と桃色の雲が描かれ、画面下中央には五感(視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚)の供物が供えられています。
左手に持つ蓮華の上には”空性”を説く経典。
五感の供物。視覚、味覚、触覚をそれぞれ表わす鏡、果物、布。
五感の供物。聴覚を表わすシンバルと、嗅覚を表わす法螺貝に満たされた香水。