梵語:パドマサンバヴァ
ウディヤナ王国、ダナコシャ湖に咲き出た蓮華から生まれたことから、”蓮華生”という意味を持つ”パドマサンバヴァ”という名で呼ばれ、チベットでは同じ意味の”ペマ・ジュンネー”、またはチベットに密教を伝えた偉大な尊師として深い敬意を表し”グル・リンポチェ”と呼ばれます。
インドのナーランダ大僧院の高僧シャンタラクシタをチベットに招聘し、チベットに仏教を導入しようとしていたものの、土着の神々によりそれを妨害されていた吐蕃王国の王ティソン・デツェンにより8世紀にチベットに招聘されました。
チベットに招聘された密教の大成就者であるグル・リンポチェは、仏教布教の妨害となっていた土着の神々を強力な霊力により調伏し、仏教を保護する護法尊として益することを誓わせ、サムイェ寺の建立を成し遂げチベットに密教を広く伝えました。
そういった功績から、チベット歴の毎月10日は「ツェチュ」と呼ばれ、グル・リンポチェを称える供養法要を行う日とされています。
観音菩薩など他の尊格同様、多くの変化身が伝えられていますが、中でも良く知られているものに虎に乗る忿怒の形相の”グル・ドルジェ・ドル”を含む八つの変化身”グル・ツェンギェー”(蓮華生大師八大変化)があります。
制作年:2003年
寸法:42.5×62.5cm
<基底材>
綿布、チョーク、膠液
<彩色画材>
ガッシュ、純金泥
”蓮華生”の名の示すように、湖水から咲き出た極彩色の蓮台の上の、”智慧と方便”を象徴する月輪と日輪に座す”グル・リンポチェ”像。
タンカ最前部には宝珠、象牙、珊瑚などの供物がその数限りない量を表現する雲海と共に描かれ、その後ろにはインディゴによる最小限の描写で湖水の波紋が描かれています。
左手には長寿の尊格”ツェパメ(無量寿菩薩)”の持物と同じ宝壺と、甘露で満たされたカパラ(骸骨杯)を持ち、右手に持つドルジェ(五鈷杵)で法敵を威嚇するこの姿はナンスィー・スィルヌンと呼ばれます。
襟元と袖口に見える内側の白い衣は、厚手の絹地の滑らかさが感じられる丁寧な暈しが澄んだインディゴで施され、その上に纏う衣にはそれぞれ蓮華や龍の細密な文様が純金泥で施されています。また青い衣の襟元、袖口の純金泥を塗った部分は、尖った瑪瑙で磨いて作り出した文様で飾られています。
左手には甘露と宝瓶が入った頭蓋骨の器。
襟・袖口を飾る純金泥部分の精緻な文様。
線描だけでなく暈しも加えて描かれた純金泥による文様。