チベット語:チェンレジー
梵語:アヴァロキテーシュヴァラ
悟りを得て仏陀の境地に達しながらも他の衆生を救うために解脱をせず、輪廻の輪の中にとどまる観音菩薩は全ての仏陀の慈悲の化身です。
その名を耳にし、姿を目にするだけでも多大な利益があると言われる観音菩薩の”オム・マ・ニ・ペ・メ・フン”という六字真言は、僧俗あわせて知らない人はいないと言えるほどチベットでは広く知られ日常的に唱えられるもので、チベット人の祖先が”観音菩薩”と”ターラ仏母”の化身である猿と羅刹女であったり、チベット歴代の王や宗教的指導者ダライ・ラマ法王が観音菩薩の化身と言われることからも、観音菩薩はチベット人と非常に深い関わりがある尊格だと言えます。
苦しむ衆生を救う為に、それぞれの心のレベル、境遇、素質に合わせて顕現する観音菩薩は非常に多くの変化身を持つ尊格で、このタンカのようにチベットで一般的な一面で四手の坐像や、十一面千手千眼の立像、また馬頭観音のような忿怒の姿も観音菩薩の変化身の一つです。
制作年:2007年
寸法:22×29cm
<基底材>
綿布、チョーク、膠液
<彩色画材>
藍銅鉱、孔雀石、本藍、緑土や黄土、純金泥など
チベットで最も広く信仰される尊格、四手の観音菩薩を花々に囲まれる姿で描いたA4サイズの小さいサイズのタンカです。
尊格の後ろの光背が、弧の周辺のみを白色で描いた中に純金泥で波線を描き込むというカルマ・ガディ派で良く見られる透明感のあるスタイルで描かれてあり、サイズの小さいタンカであるものの、背景を光背で隠してしまわないことで広がりのある画面になっています。
また、このタンカの例のようなチベットで良く見られる極彩色の蓮台に使われる、青、緑、赤、燈の各色は、一色ごとの彩度はそれほど高くなく落ち着いた色調ですが、青と燈、緑と赤という補色関係にある二色を組み合わせることで、蓮台をより鮮やかに見せています。
宝珠を持ち胸前で合掌するように合わせた両手と、左肩の鹿(アンテロープ)の皮。
俗世の穢れに染まることのない悟りを象徴する左手の持物”蓮華”。
鏡、珊瑚、象牙など湖水から咲き出た花の中に供えられた供物。