梵語:パドマサンバヴァ
ウディヤナ王国、ダナコシャ湖に咲き出た蓮華の中から8歳の童子の姿で生まれたことから、”蓮華生”という意味を持つ”パドマサンバヴァ”と呼ばれ、チベットでは同じ意味の”ペマ・ジュンネー”、またはチベットに密教を伝えた偉大な尊師として深い敬意を表し”グル・リンポチェ”と呼ばれます。
インドのナーランダ大僧院の高僧シャンタラクシタをチベットに招聘し、チベットに仏教を導入しようとしていたが、土着の神々によりそれを妨害されていた吐蕃王国の王・ティソン・デツェンにより8世紀にチベットに招聘されました。
チベットに招聘された密教の大成就者グル・リンポチェは、仏教布教の妨害となっていた土着の神々を強力な霊力により調伏し、仏教を保護する護法尊として益することを誓わせ、サムイェ寺の建立を成し遂げチベットに密教を広く伝えました。
そういった功績から、チベット歴の毎月10日は「ツェチュ」と呼ばれ、グル・リンポチェを称える供養法要を行う日とされています。
”観音菩薩”など他の尊格同様、多くの変化身が伝えられていますが、中でも良く知られているものに虎に乗る忿怒の形相の”ドルジェ・ドル”で知られる”グル・ツェンギェー”(蓮華生大師八大変化)があります。
制作年:2011年
寸法:31.6×48.9cm
<基底材>
綿布、チョーク、黄土、膠液
<彩色画材>
藍銅鉱、孔雀石、本藍、黄土、純金泥など
キャンバスはチョークに黄土を適量加えて制作されているため、東チベットのタンカで良く見られるような黄色っぽい地になっています。
本尊グル・リンポチェにはラック染料で極淡い赤のボカシを入れ滑らかで柔らかな肌を表現し、その衣は金泥描きによるいくつかの異なる細密な紋様で飾られています。また、キャンバスに対して尊格は少し小さ目に描かれてあり、その分背景部分が広く、グル・リンポチェの頭上には蓮華部の主尊”阿弥陀如来”が描かれています。他にも雲や山、湖、岩、植物、供物等が描かれていますが、そういったもので背景を隙間なく埋め尽くすことはなく、「空間」を大事にする”カルマ・ガディ派”の特徴的タンカと言えます。
※本タンカの主尊グル・リンポチェ像は、チベット人タンカ絵師の著書にある白描画を元に制作されたものです。
グル・リンポチェが着ている外套を飾る金泥描写近影。
カルマ・ガディ派で良く見られる雲の描写の一つ。キャンバス地に直接暈しを施して描く。
淡い青や緑に本藍で描く特殊なデザインのこの雲もカルマ・ガディ派の特徴の一つです。